大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和61年(う)1245号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人佐々木豊作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意第一について

論旨は、原判決の法令適用の誤りを主張するもので、原判示の事実は強姦罪と傷害罪を構成するものであるのに、強姦致傷罪を構成するものとして刑法一八一条を適用した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあるというものである。

そこで、所論にかんがみ、記録を精査して検討してみるに、本件被害者受傷の原因と認められる膝蹴り等の暴行は、原判決理由欄記載の認定事実によれば、被告人の姦淫行為が既遂に達した後被告人が被害者から後頭部を強打される抵抗を受けて両名共にベッド下に転落した直後に加えられたものであるところ、右暴行の際被告人がなお姦淫の意思を有していた場合はもとより、原判示のようにその際被告人が既に姦淫の意思を喪失して専ら逃走を容易にしようとの意思であったにすぎないとしても、時間的及び場所的関係において、それに先立つ姦淫目的の暴行脅迫と接着して行われているのであって、逃走のための行為として通常随伴する行為の関係にあるとみられ、これらを一体として当該強姦の犯罪行為が成立するとみるべきもので、これによって傷害の結果を生じた場合には強姦致傷罪が成立すると解すべきこと原判決説示のとおりで原判決には所論のような法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。

控訴趣意第二について

論旨は、原判決の量刑不当を主張するものであるが、所論にかんがみ、記録を精査し、当審における事実取調の結果をも併せて検討してみるに、本件は早朝就寝中の一人暮しの女性方に忍び込んで強姦し、その際傷害を負わせたという事案で、その罪質、態様、傷害の程度のほか被害者に格別落度の認められないことを考慮すると、犯情は甚だ悪質なうえ、被告人は昭和五五年に住居侵入、強姦、同未遂等の罪で懲役刑に処せられ服役しているほか、過去二回住居侵入、窃盗罪で懲役刑に処せられ(うち一回は執行猶予)ているのであるから、被告人の刑責は重大であって、被告人が本件を反省して更生を誓っていることその他所論主張の点を含め被告人にとって斟酌すべき事情を考慮しても、被告人を懲役四年に処した原判決の量刑は重過ぎるものでない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入することにつき刑法二一条、当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑事訴訟法一八一条一項但書を各適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中孝茂 裁判官 髙橋通延 島敏男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例